No. 46 スイジガイ(水字貝)

 

第46回目は、再登場!ソデボラ科のスイジガイ(水字貝)です! 
第3回(2019.12.20)で登場したスイジガイですが、約4年の月日を経てここに再登場です。前回は修士論文の大詰めの中、息抜きで本種への在らん限りの愛を綴ったことを記憶しています。そして先日、某南の島に出張中の研究室の後輩から一本の電話がありました。「スイジガイを送ります」…その一言は淡々と過ぎて行くモノクロの日常を瞬く間に彩り、本種への想いがどうしようも無いほどに溢れ、現在に至ります。
そんなことは良いのです。とにかく写真を見てください、これこそがスイジガイの選ばれし美個体の"輝き"です。
 
殻口はもはやこれを讃える言葉など必要もなく強烈な光沢を放ち、その鮮やかな様は夕陽に燃える東シナ海が閉じ込められたかのよう。そして全体を俯瞰しても殻表に目立った傷や侵食も無く濃い色彩の斑紋で彩られ、久しぶりに良いスイジガイを見たなと、自ずと口角が上がります。全ての棘が鋭く伸び、力強く天を突く様は見事の一言に尽き、実に見応えのある素晴らしい標本です。
しかし嘆かわしいことに、水から揚げて標本箱に収めた貝たちには、褪色という避けようのない運命が待ち受けています。今この瞬間こそが最も美しく、完璧を維持することは決して叶わない…。その儚さに世の無情を憂い、そして貝屋はまた海へと向かうのです。
実は今回の後輩からの電話は貝の標本処理に関する相談で、このスイジガイは彼が生貝から処理して一人で仕上げたものです(少し感動しました)。学生の頃からひたすら魚を追う生粋の"魚屋"の彼が、まさか貝を集め始めるとは。人は一度貝の魔性に取り憑かれると、もう二度とその虜から抜け出すことはできません。しかし貝を通して見る世界はただひたすらに美しく、これからも素晴らしき貝ライフを楽しんで欲しいと思います。

2023.9.20 安田 風眞
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