No. 52 ユリヤガイ

 

第52回目は、巻貝なのに二枚貝??ユリヤガイ科のユリヤガイです!

皆様、お久しぶりです。2回連続で対談コラムを掲載いただいたため、久しぶりの登場です。実は50回記念では「殻長140mm!見よ、これぞ王の風格-貝殻専務に特別に仕入れてもらったウミノサカエイモ-」というハイテンションな記事を書くつもりが、なんと唐突に貝殻専務より新幹線のチケットが届き・・・。感涙に咽びながら新幹線に飛び乗り、懐かしの山口県へ4年ぶりに“凱旋”を果たした次第です。
貝殻の問屋さんでの対談を終えた後は貝殻専務と熱い貝トークに花を咲かせ酒を飲み交わし、翌日からは古巣の下関へ足を運びました。我が水産大学校の所在地である吉見に達する頃には目に映るもの全てが愛おしく、胸が詰まりもはや言葉が出ず・・・。これ以上続けると本題に入れないので、下関探訪記はこの辺りで割愛します。

さて、ユリヤガイのおはなしをしましょう。本種は巻貝でありながらも殻を2枚待ち、殻だけ見ると二枚貝、歩く姿は巻貝(ウミウシ)という実に不思議な生き物です。特定の海藻のみを餌とし、本邦では山口県の見島や角島、伊豆半島、紀伊半島、四国南部、奄美諸島、沖縄などのごく限られた場所でしか見つかっていない希少種です。昭和天皇も「秋深き 海をへだてて ゆりやがひの すめる見島を はるかみさくる」と一句詠まれた、栄えある貝の一つです。
実は私、かつて角島で自然観察ガイドのボランティアをしていたこともあり、この島は非常に馴染みの深い場所です。そんな角島は大浜海水浴場のドリフトライン(漂着物が帯状に並ぶ場所)に目を凝らせば(実際は匍匐前進に近い怪しい姿勢)、5mm程度の小さな本種の貝殻に出会えます。写真の個体はまさに先日拾ってきたもので、片袖を振り上げたようなアウトラインにこのサイズ感と緑色の色彩とが相まって、非常に可愛らしいデザインをしています。漂着個体の採集は絶妙な難易度ゆえに中毒性があり、一つ見つけては次が欲しくなり、また一つ見つけては・・・と、際限なく探してしまうタイプの危険な貝です。本種を探しに初めてこの島を訪れた大学一年生の初夏、事前に情報を教えていただいた「つのしま自然館」に戦果報告に赴くと「こんなに拾ってくる奴は初めてだ」と大絶賛(ドン引き)された思い出があります。これがきっかけでガイドに採用していただいたのですから、並々ならぬ思い入れのある貝の一つです。

主に砕けた貝殻で構成される角島の「貝砂」特有のまばゆい白さは、私を学生時代へと連れ戻します。いつでもあの頃に戻れる場所、大切な第二の故郷。この地に永住したいとさえ願うほどに、山口が、下関が大好きでした。山口を踏み締めるたびに、そんな想いがどうしようもないほどに溢れ・・・。しかし私は雪国の男。凍てつく白銀の大地が、私を呼ぶのです。

2024.3.28 安田 風眞
貝殻専務との対談記事はこちら