No.34 カコボラ( 加古法螺)

34回目は、フジツガイ科のカコボラです!

カコボラは房総半島・新潟県以南の熱帯インド太平洋から大西洋に分布し、巻貝を捕食する肉食性の巻貝です。この手の捕食者は往々にして唾液線や内臓に毒を蓄積しているものが多く、本種はフグ毒として名高いテトロドトキシンを持つことで有名です。しかし市場流通こそしないものの味は良いらしく、有毒部位を除去して食べるという話をしばしば耳にします。

生時には殻表は毛状に発達した厚い殻皮で覆われ、黒、白、橙色で塗り分けられ怪しく輝く殻口からは毒々しい豹紋の軟体部が覗き、特異な雰囲気を放ちます。しかしこの殻皮を剥がすと、濃淡のコントラストが際立つ褐色を基調に彩られた、マットながらも強い光沢を帯びる非常に美しい貝殻が現れます。よく膨らんだ体層とバランスよく伸びた螺塔とが織りなす抜群のスタイルは、厚い殻皮でエッジの立たない丸いシルエットへと隠され、外観からは想像もつかないこの美しさを知るのは自分だけでありたいと、そんな独占欲を抱くのは私だけではないはず。殻皮の有無で2つの標本を並べると、初見では別種に思えるほどです。

写真の標本は学生時代に漁師さんから頂いたものです。魚類調査のため船を出していただき、帰港中に私の専門は貝である旨をお話したところ、魚の泳ぐ船倉の底からこのカコボラを拾い上げお土産に持たせてくださいました。強い日差しが海底まで透き通す青い海には一筋の白いウェーキが走り、手の中に感じるカコボラの心地良い重量感。大学院2年目の、夏の日の思い出です。

2022.9.29 安田 風眞