No. 60 クロユリダカラ(黒百合宝)
第60回目は、タカラガイ科のクロユリダカラ(黒百合宝)です!
クロユリダカラは、紀伊半島~東南アジア、およびオーストラリア東部のやや深場に分布する中-大型のタカラガイです。特に大きな個体では殻長80mmに達しますが、そんな逸品はなかなかお目にかかれる代物ではなく、60mm前後のものを見かけることが多い印象です。
本種を前にまず目に飛び込むのは、鮮やかなオレンジとホワイトスポットで彩られた背面の輝きでしょう。街灯に照らされた穏やかな雪の夜か、またあるいはそよ風を楽しむ夏毛のエゾシカか。見る者によって様々な光景が宿る魅惑のデザインに、胸の高鳴りを感じないことがあるのでしょうか?一方でこの模様の現れ方には激しい個体差があり、スポットの直径が大きく明瞭なほどに本種の価値(売価)は跳ね上がるという厳しい事実もお伝えしなければなりません。そしてこの背面の縁を囲むように走る濃褐色の緻密なラインは単なる色彩ではなく、なんと同色の腹面から続く線状の立体であり、まるで飴細工のような透明感を帯びた儚げな美しさに心を奪われます。もはや、この貝に死角なし。非の打ちどころのない卓越した美貌を誇る本種は、数多なるスーパースターを抱えるタカラガイ科の中でも屈指の美麗種であると、個人的には断言したい所存です。
小学校高学年生の頃、自分が好きなものについてWordで作文してみよう、というパソコンの授業がありました。当時の私は慣れないキーボードを必死に叩き、図鑑でしか見たことのないクロユリダカラへの恋文をしたためた思い出があります。残念ながらこの文章は現存せず(あの頃はデータをフロッピーディスクに保存したものですね)正確な内容は定かではありませんが、思えばあれこそが最初の”貝のおはなし”だったのだと、実に懐かしく・・・。そんな憧れの標本を約20年越しにようやく手に入れた今、幼い頃に見上げた故郷・秋田の寒くも暖かかった情景が、本種の背に浮かんでならないのです。
2024.11.26
安田
風眞