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No.41 ホシダカラ(星宝)

第41回目は、タカラガイ科のホシダカラ(星宝)です!
ホシダカラは紀伊半島・八丈島以南、インド洋・太平洋の浅瀬に分布する大型のタカラガイで、国内では規格外に巨大なムラクモダカラを除くと本科最大級種にランクインします。背面に黒いスポットを散らしたデザインに星空をなぞらえこの和名が付けられました。丸みが非常に強い殻は極めて艶やかに輝き、そして重厚になります。その質量と簡単な加工で紐を通せる形状ゆえか、南方地域ではかつて魚網の錘として利用されていました。
腹面は釉薬で仕上げた陶器のような、透明感のある純白をしていますが、背面の色は大きく分けると白系統、褐色系統のバリエーションがあります。特に濃褐色系個体ではエキゾチックな美しさを帯び、吸い込まれるような深い色彩に目を奪われます。手に取ると感じる充実した重量感、ガラス玉のような手触りの良さはさすがホシダカラといったところ。角のない形状も手によく馴染み、大型かつ堅牢で重厚なタカラガイからしか得ることのできない幸せがあることを思い知らされます。
また本種に限らずタカラガイの殻は表面を塗り重ねていくように成長するため、幼貝と老成貝とで比較すると色や模様、形まで異なることも珍しくありません。逆を言えば殻を削れば層により様々な色が現れるため、特に殻が厚く加工に適した本種はカメオ細工のような彫刻を施され土産物屋に並ぶ様子をよく目にします。
この写真の個体は今から22年前に祖父からもらった標本であり、当時幼かった私が初めてこの手で触れたタカラガイです。これこそが世界で一番美しい貝に違いないと、興奮と感動で胸が震えたことを今でもはっきりと覚えています。第一話で紹介した秋田県立博物館のアオイガイと、そして祖父の標本たちとの出会いこそが全ての原点であり、このホシダカラは私のコレクションの中でも特別な宝物です。

2023.4.28 安田 風眞

   

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No.40 貝殻との付き合い方(捨て方のマナー編)

40回目は、貝殻との付き合い方(寂しくも、捨て方のマナー編))です!

突然ですが、今回はコレクションとの付き合い方について書きたいと思います。というのもこの冬に秋田県某海岸にてホシダカラ(しかもなかなかにキレイ)を発見し北限更新だ!!と大歓喜するも、手に取ると明らかに一部が人為的に加工された痕跡があり、砂浜に投棄されたものであることを悟り落胆したばかりなのです。多くの貝は生まれたばかりの頃はプランクトンとして海を漂い、海流に身を任せ生息域を拡大するチャンスを狙います。適正な分布域を出てしまった幼生は概ね環境に適応できず死んでしまうのですが、いくつかの条件が重なると、稀に着底・成長に成功します。

そのため、夏でも凍える秋田の海においても南国の貝・ホシダカラと出会える確率は0とは言い切れません。実際には一度貝殻を拾っただけで北限更新のエビデンスとすることは難しいのですが、産地の異なる貝殻を海岸へ投棄するということは学術的観点からは極めて危険な行為なのです。

海で生まれ育った貝を最後に海に帰してあげたいという気持ちは大変よくわかります。しかし残念ながら、一度陸揚げ・輸送してしまった貝殻の帰るべき場所はもうどこにもありません。譲り手が見つからない場合は最後の選択肢として、居住地の自治体の指示に従い処分することになります。標本としての価値がある場合は博物館が引き取ってくれることもありますので、一度相談してみるのもオススメです。


(殻頂部が削られています)


2023.3.30 安田 風眞

No.39 リュウキュウアオイ(琉球葵)

第39回目は、ザルガイ科のリュウキュウアオイ(琉球葵)です!

リュウキュウアオイは奄美群島以南、東南アジア、北オーストラリア、インド洋に分布する二枚貝です。シャコガイ類と同様に外套膜に褐虫藻が共生し、褐虫藻が光合成によって作り出すエネルギーを利用している「太陽を食べる貝」の一種であり、分布域が物語る通り南国の強烈な太陽光と透き通る青い海でしか暮らせない貝です。本種はそのかわいらしい外観から、いわゆる”ハートシェル”としてご存知の方も多いのではないでしょうか?一方で標準和名はハートではなく葵の葉になぞらえたネーミングになっています。

本種はアサリやハマグリのような身近な二枚貝と比べると殻が縦方向に扁平しているため、殻は特有の開き方をします。例えば平面にハマグリと本種を並べて置くと、前者は垂直軸方向に、後者は水平軸方向に開くのです。気になる方はぜひ現物で確認してみてください。また殻表は細かな彫刻、外縁部は規則正しく並ぶ小さな棘で装飾されます。さらに殻頂側からは広げた翼を前で揃えた水鳥のような優雅な曲線美が描かれ、様々なアングルからの観賞にも耐えうる大変美しい貝です。そして純白のもの、赤い斑点が散りばめられたもの、黄色や桃色、褐色を帯びるもの等、殻表の色彩は個体差に富み、コレクション性が高いのも本種の大きな魅力の一つでしょう。

先日、公開25周年記念でタイタニック3Dリマスター版が限定上映されました。本作は皆さんご存知の通り「Le Coeur de la Mer, The Heart of the Ocean(碧き海の心、碧洋のハート)」と名付けられた伝説のブルーダイヤモンドをきっかけに物語が大きく展開していくのですが、リュウキュウアオイこそ貝界のThe heart of the oceanで間違いないでしょう。かく言う私はタイタニックの大ファンであり、これまでDVDで数えきれないほど観てきたにもかかわらず、やはり言うまでもなく映画館での体験は格別でした。これは貝のおはなしにも通ずるもので、壁しか見えない住宅街の狭いアパートではなく、窓の外に広がる青い海を眺め、時折潮の香りを感じながら執筆できたらどんなに素晴らしいことだろうかと、改めて強く感じた次第です。

2023.2.28 安田 風眞

  

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No.38 ニセバライロバショウ(偽薔薇色芭蕉)

38回目は、アッキガイ科のニセバライロバショウ(偽薔薇色芭蕉)です!

ニセバライロバショウは、フィリピン近海の深場に生息するアッキガイ科屈指の美貝です。前回、前々回とで愛を語ったイモガイ科と同様に本科もまた美麗種が多く人気が絶えないグループですが、その中でもやはり本種は一線を画す圧倒的な存在感で名声を轟かせる貝です。
扇のように縦張肋上に張り巡らされた褐色のヒレ状突起の表面には螺肋が均一かつ緻密に刻まれ、さらにこの上に放射状に白帯が走る様は遥か洋上の水平線から昇る雄大な太陽のごとき神々しさを放ちます。一方でこのヒレは光にかざせば透けるほどに薄く、指先で触れると崩れてしまいそうな、またあるいはまだ穢れを知らぬ少女の可憐さにも似た儚さをも感じさせます。それゆえに標本箱の中から取り出すことすら憚られ、触れるたびにえも言われぬ罪悪感さえ抱いてしまいます。大型のものでも殻長60mm前後とアッキガイ科の中では比較的小ぶりな本種ですが、このサイズゆえに繊細な造形美が際立ち、本種の不動の地位を確固たるものへと昇華させているように思います。
類稀なる華やかさ、そして初日の出を連想させるタイムリーさはまさに年の始まりのおはなしに相応しく今回は本種をチョイスしました。1月も末になると新年の喜ばしさも薄れてしまいますが、2023年もどうかよろしくお願いします。

2023.1.31 安田 風眞

No.37 ハデミナシ(派手身無)

37回は、イモガイ科のハデミナシ(派手身無)です!

ハデミナシはインド洋に分布する大型のイモガイです。深場に生息することから、やはりかつては採集難易度が高く希少な貝の一つでした。その珍しさと美しさから「Glory of India (インドの栄光)」として名高い本種は、前回登場したイモガイの王様・ウミノサカエイモに肩を並べる本科の美麗種のひとつです。ウミノサカエイモのマッシブなボディラインとは対照的に、極端にスリムなハデミナシの殻表はもはや言うまでもなく光沢を帯び、その名の通り絢爛たる装飾で彩られます。濃褐色の殻表に広がる大型の白い三角斑は荘厳なヒマラヤ山脈やチベット高原を連想させ、煌びやかさの中に確かな気品を漂わせる佇まいと、かつての希少性とが相まってまさしく“インドの栄光”を体現した本種こそ、イモガイの女王にふさわしいのではないでしょうか。

余談ですが、貝好きの友人に標本を見せたところ、意に反して私が愛するウミノサカエイモよりも美しいとのこと。確かに両種を見比べるほどに甲乙つけ難く、悔しくも私の手持ちのKing of ConusではGlory of Indiaを圧倒することは叶わず・・・。しかし、こういうひと時が堪らなく楽しく、これだから貝蒐集はやめられないのです。

気が付けば2022年もあっという間に幕を閉じますね。今年も本当に色々なことがあった激動の一年間でした。果たして来年はどんな年になるのか。皆様にとって素晴らしい一年となることを祈るばかりです。4年目に突入した貝のおはなしをこれからもよろしくお願いします。

   

2022.12.27 安田 風眞

No.36 ウミノサカエイモ(海之栄芋)

36回目は、イモガイ科のウミノサカエイモ(海之栄芋)です!

ウミノサカエイモはインド洋-西太平洋に分布する大型のイモガイで、かつて世界一高価な貝として君臨した「イモガイの王様」でした。ちなみに世界最大の標本は殻長180mmに達しますが、一般流通している大型の個体は120mm前後のものが多い印象です。大型個体においてはイモガイにありがちな「撫で肩」ではなく、各段の肩が立ち堂々たるその様はまさに王の風格を放ちます。また殻表に描かれる緻密な三角斑と強い光沢を帯びた濃褐色の地肌に、螺塔・体層の双方が上下にバランス良く伸びた抜群のプロポーションを兼ね備えた本種は、よく似た模様を持つタガヤサンミナシとは一線を画する美しさを誇ります。この貝を貶す言葉を私は知らず、王の王たる所以を感じざるを得ません。

本種は1777年に初めて発見されて以来、なんと20世紀を迎えるまで全世界で標本が25個程度しか存在しなかったという歴史があるほどに希少な貝でした。幻の貝の噂は噂を呼び、1700年代後半にはあるコレクターがこの貝を高額で購入した直後にその場で踏み砕いて自らが元々所有していた標本の価値を誇示したなどというエピソードが捏造・流布されてしまうほどに、誰もが羨み、憧れた貝でした。そして1963年、殻長140mmの標本が2000ドル(現在の貨幣価値に換算すると300400万円)で取引され、これを以て当時世界で最も高価な貝として記録されました。

今では生息場所が判明し、また採集技術の向上によって比較的安定供給されるようになり、程度によっては数千円も払えば手に入るようになりました。とはいえ、未だその価値が色褪せたわけではなく、いつの時代もコレクターから愛され続ける栄えある種の一つです。かく言う私も本種に魅了された一人であり、より素晴らしい標本を求め続けています。私が所有する写真の個体は僅か69mmしかなく、発色も芳しくなくウミノサカエイモ本来の美しさを伝えられないことが悔やまれます。いつの日か、150mmオーバー、いや夢は大きく180mm級の美個体を手に入れるのが野望の一つです。

2022.11.30 安田 風眞

No.35.ヒメゴホウラ(姫護法螺)

35回目は、ソデボラ科のヒメゴホウラ(姫護法螺)です!

ヒメゴホウラは奄美諸島以南、熱帯西太平洋のサンゴ礁や岩礁に分布しています。ゴホウラと比較すると螺塔と体層がスラリと上下に伸びるスリムなシルエットと、殻長120mm程度の小ぶりなサイズ感はまさに”ヒメ”を体現しています。外唇上縁には4本の指状突起が発達し、殻頂から連なり凹凸に富む魅惑のラインを形成します。またゴホウラほどではありませんが、やはり外唇は肥厚し、そして実にソデボラらしく優雅に広がります。褐色の地に白い模様が入った殻表は光沢を放ち、本種の美しさを際立てます。優しい丸みを帯びた体層の腹面には雪化粧の山脈を彷彿とさせる独特な模様が描かれ、ここからガラスの如き透明感の濃褐色で塗られた殻口まで、まるで渓谷のように一気に落ち込み、吸い込まれるような奥行き感を演出します。本種のみならず、なぜこんなにもソデボラは魅力に満ちているのでしょうか。見つめるたびに新たな魅力に気が付くほどに、心を奪われます。

写真の個体は、大学院生の頃に貝殻の問屋さんの店舗で直接購入したものです。棚には美しい貝殻の数々が所狭しと並べられ、ついつい買う予定のなかった貝までカゴに入れてしまいます。小型〜中型の貝はガラスの水槽(水は入っていませんよ)の中に収められ、色彩豊かな様も相まってまるで幼い頃に映画で観た海外のお菓子屋さんのような素敵な光景が広がっています。貝殻がお好きな方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

2022.10.31 安田 風眞

  

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No.34 カコボラ( 加古法螺)

34回目は、フジツガイ科のカコボラです!

カコボラは房総半島・新潟県以南の熱帯インド太平洋から大西洋に分布し、巻貝を捕食する肉食性の巻貝です。この手の捕食者は往々にして唾液線や内臓に毒を蓄積しているものが多く、本種はフグ毒として名高いテトロドトキシンを持つことで有名です。しかし市場流通こそしないものの味は良いらしく、有毒部位を除去して食べるという話をしばしば耳にします。

生時には殻表は毛状に発達した厚い殻皮で覆われ、黒、白、橙色で塗り分けられ怪しく輝く殻口からは毒々しい豹紋の軟体部が覗き、特異な雰囲気を放ちます。しかしこの殻皮を剥がすと、濃淡のコントラストが際立つ褐色を基調に彩られた、マットながらも強い光沢を帯びる非常に美しい貝殻が現れます。よく膨らんだ体層とバランスよく伸びた螺塔とが織りなす抜群のスタイルは、厚い殻皮でエッジの立たない丸いシルエットへと隠され、外観からは想像もつかないこの美しさを知るのは自分だけでありたいと、そんな独占欲を抱くのは私だけではないはず。殻皮の有無で2つの標本を並べると、初見では別種に思えるほどです。

写真の標本は学生時代に漁師さんから頂いたものです。魚類調査のため船を出していただき、帰港中に私の専門は貝である旨をお話したところ、魚の泳ぐ船倉の底からこのカコボラを拾い上げお土産に持たせてくださいました。強い日差しが海底まで透き通す青い海には一筋の白いウェーキが走り、手の中に感じるカコボラの心地良い重量感。大学院2年目の、夏の日の思い出です。

2022.9.29 安田 風眞

No.33 ニシキアマオブネ(錦蜑小舟)

33回目は、アマオブネガイ科のニシキアマオブネです!

ニシキアマオブネは八丈島、紀伊半島以南の潮間帯に分布しています。岩礁に接する浜辺で日中は砂に潜って過ごし、夜になると岩をよじ登り岩に付着した藻類を食べて暮らしています。殻表は付着物が付かずつるりと鈍く光り、腹面はタカラガイ顔負けのガラスのような強い光沢を放ちます。螺塔は平らでコロコロとしたサイズ感、さらに白い軟体部に黒く丸い目が目立つあどけない顔で歩き回る様が実に可愛らしい貝です。石灰質の蓋は殻口に寸分の狂いなくピタリと嵌まり、機能美を追求したデザインに自然選択説の美しさを垣間見ます。また、写真のように殻の色彩には複数のパターンがあり、実にコレクション性が高く標本を複数所持せざるを得ない困った奴です。

昼間はがらんと寂しかった磯も、日没後に足を運ぶと岩の上に溢れかえる数多のニシキアマオブネたちに驚かされます。また本種のみならず、夜の磯にはフラッシュライトの明かりで切り取ったわずかな景色の中に、驚くほど多くの生き物たちが生を謳歌しています。一切の明かりを欠く海での夜間観察・採集には想像を遥かに上回る危険が伴うため読者の皆様にオススメすることはできません。しかし、暗闇の壁がそびえる島の夜を歩き、泳ぎ、生物たちの営みをのぞき見するその瞬間には、何ものにも代えがたい高揚感を覚えます。標本箱の中で輝く貝殻の一つ一つに、学生時代の冒険の思い出が刻まれているのです。

 

2022.8.31 安田 風眞

No.32 ボウシュウボラ (房州法螺)

32回目は、フジツガイ科のボウシュウボラ(房州法螺)です!

ボウシュウボラは大きな個体では殻長250mmに達するフジツガイ科の大型種で、房総半島・山口県以南、フィリピンに分布しています。本種はホラガイの近縁種のため殻の形状や生態も両種間でよく似ており、ホラガイがオニヒトデの天敵であるのと同様に本種もやはり棘皮動物を捕食しています。また殻表の侵食が少ない個体はクリーニングすると控えめながらも光沢を帯び(体層は輝きを放つ強い光沢)、肩上に規則正しく並んだ柔らかいシルエットの結節がその美しさを際立てます。そしてこの濃褐色に強く彩られた殻表と純白の殻口とが鮮やかなコントラストを成し、その大きさと相まって非常に見ごたえのある貝です。

本種は房総半島以南の太平洋沿岸の市場では一般的な貝で、その外見から「ホラガイ」の名前で流通しており、味は良いと聞きます。ただし専門で漁獲されているというよりは、イセエビ刺し網漁の外道として水揚げされているというイメージが強いです。

大学院生の頃、ボウシュウボラを求め唐戸市場に通っていた時期がありました。しかし下関では流通量が少なく空振り続きで肩を落としていると、研究室の後輩が帰省先の愛知県からどっさりと調達してきてくれました。この標本(写真の個体)は、そんな学生時代の大切な思い出の一つです。余談ですが、ボウシュウボラで笛を作成する野望を長年抱き続けているのですが、いざ螺塔にグラインダーの刃を当てるとたちまち惜しくなり、未だ実行できておりません。完成の暁には、必ずや貝のおはなしで皆様に報告いたします。

2022.7.29 安田 風眞

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