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第6回 ルリガイ(瑠璃貝)のおはなし

ルリガイはその名の通り瑠璃色をした、非常に薄く脆い殻をした貝です。軟体部はインク壺から零れ落ちたかのような、貝殻よりもはるかに深い瑠璃色をまとっています。

この貝は浮遊性の巻貝で、世界中の暖流域の表層に分布しています。驚くべきことに、自らの足から分泌した粘液で作った細かい泡を連結させた筏を作り、その下に逆さまにぶら下がって海を漂っているという貝らしからぬ優雅な生活をしています。

しかし、そんな「波任せ」の生き方をしているがゆえに、海が荒れると集団で砂浜に漂着してしまうという悲しい運命を背負っています。こうして打ち上がったルリガイは海からの贈り物となり、我々コレクターは感謝しながらこれを拾い、標本箱に収めるのです。

私ごとではありますが、今回が学生という肩書でしたためる最後のエッセイになります。思えば、幼い頃にアオイガイに心を奪われて以来、様々なものに目移りしながらも貝への憧れを追い続けて辿り着いた「砂浜」が水産大学校であり、そしてこのエッセイの連載という初めての挑戦の場を下さった貝殻の問屋さんでした。浅学菲才な学生の身でありながら、大変貴重な経験をさせていただきました。改めて感謝と御礼を申し上げます。

…最終回のような雰囲気になっておりますが、これからは「貝のおはなし‐社会人編‐」として、末永くお付き合いの程よろしくお願いします。

水産大学校 研究科  安田 風眞

第5回 マンボウガイ(万宝貝)のおはなし

5回は、貝なのにマンボウ?トウカムリガイ科のマンボウガイ(万宝貝)です!

マンボウガイという名前を聞くと魚のマンボウを想像してしまいがちですが、魚のマンボウではなく「万宝」の字をあてる、なんとも縁起の良さそうなネーミングの貝です。かつては「マンネンガイ(万年貝)」という名が付けられており、こちらの名前でご存知の方も多いかもしれません。大きいものでは殻長15 cmを越え、ゴツゴツとした外見には似つかない艶やかな肌が大変美しい貝です。貝殻は非常に重厚かつ堅牢で、その形状ゆえに海外ではレッドヘルメットシェルの名で呼ばれています。熱帯インド洋-西大西洋、および紀伊半島以南に分布していますが、日本近海での採集は難しいようです。稀に沖縄や高知で採集されることがあります。

さて、このマンボウガイですが、実はカメオの原料として有名な貝です。特に本種を含む貝殻を原料とするシェルカメオは、ルネサンス期以降のヨーロッパで盛んに制作されるようになったそうです。その技術は現在も脈々と継承され、時代を越えて人々に愛され続けています。

余談ですが、今回のエッセイの執筆にあたりカメオについて少しだけ勉強しました。その結果、込み上げてくる「どうしても今すぐに実物を見たい」という衝動は留まる所を知らず、オークションで中古のシェルカメオを買ってしまう始末。貝のコレクションと同様に一つとして同じものが存在しないカメオは、どうもコレクターの心をくすぐる甘く危険な香りを漂わせています…笑。

【マンボウガイ】

【シェルカメオ】

水産大学校 研究科  安田 風眞

‐ マンボウガイの商品ページ ‐

第4回 カノコダカラ(鹿の子宝)のおはなし

4回はタカラガイ科のカノコダカラ(鹿の子宝)です。

 カノコダカラは、その名のとおり殻の表面に鹿の子模様をまとった大変可愛らしいタカラガイです。大きさは3 cmほどの小型種で、房総半島以南に分布しています。タカラガイは殻口側を「腹面」、その反対の丸く膨らむ側を「背面」と呼びますが、カノコダカラは鹿の子模様がある背面とは対照的に腹面は真っ白で、こんなところまで鹿にそっくりです。ちなみにメキシコ湾周辺にはシカダカラという大型のタカラガイがいますがこれはまた別の回で登場するかもしれません。

海で捕まえたばかりのカノコダカラは透明感のある明るい褐色の鹿の子模様をしていますが、時間の経過につれて透明感は失われ、色彩も薄くなっていきます。実はこれは本種に限ったことではなく、全ての貝に共通したことです。大変嘆かわしいことに、標本にした貝殻の色彩を完全な状態で維持することは難しく、標本箱の中でひっそりとその美しさは失われていきます。これは貝殻が大気に晒されることで発生する酸化や乾燥、紫外線による色素の劣化等、様々な原因があると言われています。貝の退色の程度は種によって様々ですが、タカラガイでは特に顕著なように感じます。退色を少しでも遅らせるために、貝は紫外線の当たりにくい場所に保存することが望ましいです。しかし、美しい貝は目の届くところに飾って毎日眺めたい。色を取るか、満足感を取るか… 優先順位の葛藤はコレクター永遠の命題なのです。

【カノコダカラ】

水産大学校 研究科  安田 風眞

-カノコダカラの商品ページ-

第3回 スイジガイ(水字貝)のおはなし

 3回は、私が愛してやまないソデボラ科のスイジガイ(水字貝)です!

 スイジガイは、殻の縁に6本の長く鋭い棘を持っています。殻口を下にして置くと、殻の形が漢字の「水」に見えるので「水字貝」です。水を連想させるこの貝は沖縄では古くから火難除けや魔除けとして利用されており、今でも家の軒先にスイジガイが吊るされている光景を目にすることができます。棘の本数については、稀に6本より多かったり少なかったりする個体が見つかることがあります。また、オスの殻はメスのものよりも小さく、殻口に美しい皺模様が現れることがあり、かつては「シワクチガイ」として別種だと考えられていました。

 白地の殻の表面に現れる褐色の霜降り模様と、オレンジ混じりのピンク色で彩られた光沢のある殻口のコントラスト。そして力強く優美ささえ感じさせるスラリとバランスよく伸びた棘。“あらゆる角度からの鑑賞にも堪えうる完璧な造形美”と表現しても過言ではないでしょう。初めて図鑑でこの貝の写真を見たその時から私の心は奪われてしまったのです。

 私がスイジガイと出会った図鑑は小学校2年生の時に祖父に買ってもらった『フィールド図鑑「貝類」(奥谷,1987)』でした。文字通り穴が開くほど眺めてボロボロになったこの図鑑は今でも私にとって特別な一冊です。

水産大学校 研究科 安田 風眞

-スイジガイの商品ページ-

第2回 ハチジョウダカラ(八丈宝)のおはなし

2回目は、タカラガイ科のハチジョウダカラです!(番外編として先日掲載された桝田結友くんの研究に感銘を受け、急遽タカラガイのお話に変更しました。)

ハチジョウダカラは、漆器を連想させる上品で艶やかな黒地に金色の斑点をあしらった、なんとも気品の漂う佇まいをした貝です。本種は大きな個体では殻長110 mmに達し、日本近海に生息するタカラガイの中でも特に大型になる種です。また本種に限らず、タカラガイ科の貝は殻の表面がガラスでコーティングされているかのような透明感のある光沢を帯びています。そのため、初めてこの貝を見る方はニスが塗ってあると勘違いされることが多いですが、これは紛れもなく自然が生み出した神秘の造形美なのです。タカラガイは生きているときは外套膜という体の一部で殻の表面を覆っており、傷や汚れが付きにくいためこの光沢が生まれます。外側はゴツゴツしているサザエも、殻の内側は滑らかなのと同じ理屈です。

非常に興味深いことに、古より繁栄や生命の誕生、富のシンボルとしてタカラガイを用いる文化が世界中のあちこちに存在します。かつて日本では「子安貝」と呼ばれ、お産の際に安産を祈願して妊婦にタカラガイを握らせる風習があったようです。子安貝は特にハチジョウダカラを差すことが多く、竹取物語に登場する「燕の子安貝」も本種を表しているようです。ツバメの巣にタカラガイとは、求婚を断るためとはいえ、かぐや姫もエキセントリックなリクエストをしたものです。しかしこの文章を読んでくださった皆さんなら、かぐや姫の心を射止めることができるかもしれません。

【ハチジョウダカラ】

水産大学校 研究科  安田 風眞

-ハチジョウダカラの商品ページ-


(番外編)タカラガイの標本作り 静岡県藤枝市立高洲小学校 6年3組 桝田結友

宝貝(タカラガイ)とは? (Weblio.jp

本州中部以南の暖海に広く分布する長卵系の巻き貝。地域によっては「ホウガイ(宝貝) 千葉県」「ネコガイ 静岡県」「ウシモーモー 沖縄県」とよばれることもある。

タカラガイの生態 jd.m.wikipedia.org

タカラガイは世界中の熱帯から亜熱帯の海域に分布(生息)し、特にインド洋や太平洋の潮間帯から水深500mにかけての深場に多く生息する。生体は殻の一部または大部分を外套膜におおわれているため殻の表面は光沢をもつ。

タカラガイの文明史honz.jp

〔お金として〕

13世紀ころ ダホメ王国の北にあったマリ帝国でも貨幣として使用されていた。

17~18世紀 イスラム商人によりモルジブ諸島から北アフリカ、サハラ砂漠を経由して運ばれた。

西アフリカの現在のペナン共和国では、タカラガイが貨幣(お金)として使われてきた。タカラガイがないと全く買い物ができなかった。

・仕事1日の賃金 タカラガイ120個

・にわとり一羽 タカラガイ200個

・大人一日の生活費 タカラガイ100個

1894年 ダホメ王国はフランス領となり、タカラガイの公的な貨幣としての使用は1901年に終了。

1965年 ダホメ王国の西隣にガーナ共和国で新たな貨幣制度がもうけられたとき、貨幣の単位は「セディ」と決められた。「セディ」とは貝殻の意味。

中国では、18世紀までタカラガイは貝貨として流通していた。ちょうどいい大きさのキイロダカラ、ハナビラダカラが珍重された。タカラガイはお金のようなものだった。

<なぜタカラガイをお金にしたのか?>

ダホメの王は「誰もがまねして造れない。誰もがひそかに金持ちになることはない。」と考えていた。

〔アクセサリーとして〕

タカラガイは色や形が美しいので、古代からアクセサリーの素材として使われていたと考えられている。映画「モアナと電話の海」でも小さい頃のモアナが首かざりとしてタカラガイをつけていた。

なぜタカラガイについて調べようを思ったか?

ぼくは貝殻が大好きで今までもたくさんの貝を集めたり海で拾ったりして家にはたくさんの貝があります。

その中でタカラガイが一番好きなので、タカラガイについて調べようと思いました。タカラガイは身近な海でも探せるし、夏休みに沖縄に旅行するので沖縄の海でタカラガイを探したいと思いました。

探した貝殻を標本にしてみようと思いました。

標本のつくり方

生きた貝を標本にするには肉の部分をどう取り出すかが課題。

貝の肉を取り出す方法

・一般的には肉を腐らせて取り出す方法

・冷凍して取り出す方法

<手  順>
  1. 採集後すぐに個別に小さなチャック袋などにいれる。

  2. 外の直射日光が当たらないようにする。

  3. 夏なら3~4日ほど、冬なら1週間程度ほどほう置する。

  4. うじ虫が発生し、貝の肉を食べてもらう。

  5. 臭いがなくなってきたら水で勢いよく洗って残肉を洗い出す。

  6. よく水分を切って、殻口を上にしてよく乾燥させれば完成。

タカラガイのつやはとても失われやすいものであり、一般的な巻貝のようにゆでたり、塩素漂白剤に日足りたり、さらに長時間水につけるとつやがなくなってしまう。

<実際にタカラガイ集めをしてみた>

7/29 浜比嘉島(沖縄) 備瀬崎 干潮時間

岩にかげや石の裏にタカラガイはいる。

【採取風景】

7/30 恩納村

7/31 帰宅(ジップロックに貝を入れてされあにふくろを何重にして も、ものすごく悪臭がした。生きていた貝が死んでしまったから、くさってしまったにおいだと思う。

8/1 家の屋上に水洗いしてから新聞紙の上に干す。

周りににおうぐらいくさくてたまらなかった。

うじ虫が貝にたかっていた。

【うじ虫&貝の肉がまだたくさんある】

8/5  うじ虫の数がどんどんふえていった。

8/9  まだ貝のくさったにおいがした。

8/10 うじ虫がいなくなった。(ハエになり飛んでいった。)

8/11 貝の中身はキレイに肉がなくなっていた。

【肉がなくなってピカピカになっている】

8/12 できあがったものからふくろに入れてまとめていく。

8/17 ケースに入れ標本完成

8/21 今回行っていない場所の石垣島や御前崎で採取したタカラガイも標本に追加した。

標本した貝の採集場所(よくタカラガイがいたところ) 標本に使用したタカラガイ

キイロダカラ

分 布: 日本の本州南部以南

サイズ: 1.7~2.8cm

古代より貨幣として使われ漢字の「貝」の字はこのキイロダカラの形がもとになっている。

カモンダカラ

分 布: 日本の本州中部以南

サイズ: 1.9~2.4cm

生息地: 水深20m程度

ハナマルユキ

分 布:日本の本州南部以南

サイズ:2.7~3.5cm

生息地:水深10m程度までのごく浅い海域

ナシジダカラ

分 布:日本の本州南部以南

サイズ:1.4~2.1cm

生息地:岩かげなど・水深100mを超える場所から採集されることもあり。生息深度のはばが広い。

コモンダカラ

分 布:日本の本州南部以南

サイズ:2.7~4.1cm

成貝では左右側面の中央にそれぞれ1個の大きな暗色斑がありこれが和名の由来

サバダカラ

分 布: 日本の本州南部以南

サイズ: 1.1~1.7cm

生息地: 岩かげから水深20m程度

ハナビラダカラ

分 布:日本の本州東北以南

サイズ: 1.9~4cm

非常によくみられる。場所によっては多産する。

オミナエシダカラ

分 布:日本の本州南部以南

サイズ:2.1~2.9cm

生息地:水深30m程度。

ふつう種

ツマグロヤナギシボリダカラ

分 布:ハワイ諸島 ポリネシア イースター島

サイズ:1.5~3cm

なぜか恩納村に打ち上げられていた。

クロハラダカラ

分 布:東シナ貝~西太平洋

サイズ:3.9~5.2cm

生息地:海底の転石や海綿の間

非常に希少

クチグロキヌタ

分 布: 日本の本州南部以南

サイズ: 3.4~4.5cm

御前崎でよくみた。地域によってはよく見られる。

メダカラ

分 布: 日本の本州東北以南

サイズ:1.4~1.9cm

まん中の黒いはん点が目玉を連想させることが和名の由来。

標本づくりをやってみての感想

とにかく想像以上のにおいだった。生きていた貝は採取後翌日ぐらいには死んでしまい暑さもありそのにおいはきょうれつでした。

家族から

「もうこういうことはやらないで」と言われてしまいました。今までは海から拾った貝はくさいのでハイターで漂白してキレイにしていました。

でも次亜塩素酸によりタカラガイのツヤ、もようが消えてしまうことを知り、くさくてもうじ虫に貝の肉を食べてもらったら本当ににおいが消えました。

タカラガイのツヤがピカピカで本当に宝石のようだと思いました。

タカラガイについて調べた感想

沖縄でたくさんの生きたタカラガイを採取できたことはとてもうれしかったです。タカラガイについて、お金や首かざりであったことは知っていたけど、細かくは知らなかったけど、タカラガイがニワトリと交換できたり、お給料として使われていると知り、すごいなと思いました。

お金の単位に「セディ」と貝の意味を残しているのも感動しました。

今後の課題

沖縄以外でもタカラガイは採取できます。ぼくの住む静岡県の海でもタカラガイがいます。集めているぼくにはうれしいことだけど、暖かい気候(熱帯地方など)のところに住んでいるタカラガイが静岡にいるということはそれだけ海水温が高くなっているかもしれないと思いました。

サンゴなんか、お前崎にあるはずがなくても珊サンゴの死がいがおちています。海の生態もこわしているのは地球温暖化が関連しているかもしれないと思いました。

ぼくの大好きなタカラガイや他の貝、魚など海がすきなだけでなく、海を守るための取り組みにも注目していきたいです。

参考資料

「タカラガイ」 ネイチャーウォッチング研究会 誠文堂 新光社

「世界の歴史24アフリカの民族と社会」 中央公論社

「西アフリカの王権と市場」山川出版社

2017年8月 高洲小学校 6年3組 桝田結友

第1回 アオイガイ(葵貝)のおはなし

 第1回目は、アオイガイ(葵貝)についてお話ししたいと思います。

アオイガイは、カイダコ科のタコのメスが産卵のために作る不思議な貝(擬殻)です。紙のように薄くガラスのように脆いその殻は、冬の寒空に舞う雪のような美しい白色をしています。「アオイガイ(葵貝)」という名前は、2つの殻を口が重なるように並べて置くと葵の葉に形がよく似ていることに由来しています。

アオイガイは日本近海には分布していないと考えられていますが、海中を漂いながら生活しているために、一部の個体が海流によって日本の沿岸にやってきます。やがて冬の冷たい海水に耐えられなくなり、力尽きて砂浜に漂着します。これを死滅回遊と言います。地域によっては毎年大量に漂着するため、冬の訪れを告げる風物詩となっています。

私がこの貝と初めて出会ったのは秋田県立博物館でした。今から18年前の冬、名も知らぬ海から遥か秋田の砂浜に流れ着いたその貝は、少年だった私の心を掴んで離さず、その後貝の研究に取り組む大きなきっかけとなりました。

そろそろ今年もアオイガイ漂着シーズンに入ります。ぜひ砂浜に行って、美しい貝たちとの素敵な出会いを楽しまれてみてはいかがでしょうか。

【アオイガイ】

   

水産大学校 研究科  安田 風眞

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