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No. 83 ガクフボラ科のハデスマキボラ(派手簀巻法螺)

 

第83回目は、ガクフボラ科のハデスマキボラ(派手簀巻法螺)です!

 ハデスマキボラは、台湾~南シナ海にかけて分布する殻長100mm前後の中型の巻貝です!

 本種の殻表は落ち着いた光沢を帯び、非常に印象的な深い溝状の縦肋が均等に走ります。これを濃褐色の細い線が横断することで楽譜のような模様が浮かぶ様は、まさに”ガクフボラ(楽譜法螺)”の名を体現します。さらに肩のエッジが立ち上がることで縫合に螺旋階段のような段差が生じ、細長く端正なシルエットをさらにエレガントな佇まいへと昇華させます。クリーム色の地の殻表には褐色斑が蛇行しながらも規則的に並び、これが肩では特に濃く螺塔に連なることで程よいアクセントとなり目を惹きます。この溝と色彩を派手な簀巻になぞらえ、この和名が与えられたことは想像に難くありませんね。殻口が大きく開くその堂々たる様は実にガクフボラらしく、前述の濃褐色の線が外唇に点となり並びます。というよりは、実はこの点が途切れることなく脈々と続くことでこの繊細な線となり、単に派手なだけでは終わらない本種のデザインが形成されているのです。

 ハデスマキボラは、個人的には初めて見た時から一目惚れしてしまったほどに、色合いといい形といい何を見てもタイプな貝です。久しぶりにこういう貝に会いに南国に遊びに行きたいなあと、ついに氷点下を下回った外気温を見ながらふと思うのでした。

2026.10.30

安田 風眞

No. 82 タケノコガイ科のリュウキュウタケ(琉球筍)

第82回目は、タケノコガイ科のリュウキュウタケ(琉球筍)です!

 リュウキュウタケは紀伊半島以南・小笠原諸島以南、熱帯インド-西太平洋の潮間帯下部〜水深40mの砂底に分布し、大きなものでは殻長200mmに迫る本邦最大のタケノコガイです。

 マッシブな体層からは螺塔が細くも力強く伸び、さらに殻表が鈍く輝く様は大型獣の牙のようなただならぬ迫力あるルックス。厚手の殻は圧巻の重量を誇り、一切の繊細さを感じさせないその巨体はタケノコガイらしからぬ異次元の存在感を放ちます。一方で黄色味がかった淡褐色の地には黒い斑点が並び、天を穿つ巨塔に延々と並ぶ窓を思わせる意外なデザイン性は、ただ大きいだけでは終わらない本種のえも言われぬ魅力を引き出すのです。

 一方で現実的な問題に目を向けると、タケノコガイの仲間は殻口が狭いうえに貝殻の巻き数が多く、キレイに中身を出すのが本当に大変で・・・。標本の作成にはとにかく手間がかかります。しかし海底から掘り出した本種の美しさの前ではそんな苦労など忘れてしまい、つい持ち帰ってはその後訪れる長い戦いの火蓋が切って落とされるのです。

 私ごとで大変恐縮ですが、今月の上旬に祖父が旅立ちました。私にとっては貝の世界の扉を開いてくれた張本人であり、我が人生に多大なる影響を与えてくれた人物でした。今こうしてコラムを認めているのも、全ては今から20数年前に、幼かった私の小さな手に祖父が握らせてくれた美麗なる貝の標本たち、未だ忘れることのないホシダカラやリュウキュウタケ、ソデボラ、ヒメヒオウギ、ミドリパプアマイマイ・・・etc.から始まったのです。体調を崩す以前は「貝のおはなし」の熱心な読者でもいてくれた祖父を偲び、今回は”始まりの貝”の一つである本種を選んだ次第です。

2026.9.29

安田 風眞

No. 81 ウミウサギ科のキノコダマ(茸玉)

 

第81回目は、ウミウサギ科のキノコダマ(茸玉)です!

 キノコダマはカリフォルニア湾~エクアドルにかけての中米太平洋浅海域に分布する、殻長10〜30mmほどの小型のタカラガイの仲間です。

 まさに毒キノコ!と言わんばかりのその毒々しさは、一目見たら生涯忘れることはないであろう衝撃的なルックスと言っても過言ではないはず。薄紫まじりのくすんだ白色の地の殻表には橙色の丸い突起がびっしりと散りばめられ、さらにこの突起は殻の中央部を除いたほとんどが濃褐色で縁取られることで、本種のエキセントリックな印象に拍車をかけます。殻を返せば褐色の腹面にはキノコの傘のように白い襞が密に走り、背だけでは終わらない本種の奇抜さに賞賛を送りたくなってしまうのです。そんな複数の鑑賞ポイントにあふれる本種ですが、全ての要素を一目で楽しむことのできる側面からのアングルで眺めるのが一番のおすすめ。特に突起と襞が混じって溶け合う様は実に見事で、本種にしか成し得ないその型破りな美しさに息を呑んでしまうことでしょう。何がどうなるとこのデザインに収束するのかは全く想像がつきませんが、そんな摩訶不思議な自然の造形美に想いを馳せるひとときこそが、貝殻収集の究極の喜びの一つでもあるように思います。

 小学生の頃に博物館の収蔵庫で初めて本種を手に取った時は、びっくりして声が出てしまったほど私にとっては非常に印象深い貝の一つです。今回、20数年越しにようやくキノコダマを標本箱に納めることができました。終わりなき収集の道は、かくして果てしなく続いてゆくのでしょう。

2026.8.30

安田 風眞

No. 80 ミヒカリコオロギボラ(魅光蟋蟀法螺)

 

第80回目は、ガクフボラ科のミヒカリコオロギボラ(魅光蟋蟀法螺)です!

 ミヒカリコオロギボラは、フィリピン以南の熱帯太平洋に分布する殻長20~25cmに達する大型の巻貝です!

 本種の殻は極めて重厚で、殻表は梨地ながら鈍い光沢を帯びます。肩上には大きな棘状の突起が発達し、王冠のように並ぶ様はその重量も相まってまさに圧巻の一言に尽きます。淡褐色の殻表には針葉樹林を思わせる濃褐色の幾何学模様が描かれ、大味なシルエットながらも美しい装飾を待つそのギャップに胸が高鳴ります。また、ガクフボラの仲間の多くに共通する特徴でもある丸みを帯びた大きな胎殻が殻頂に鎮座する様は、荒々しい外観を持つ本種の貴重なチャーミングポイントとして目を惹かれることでしょう。殻口は大きく開き、体層には非常に面積の広い艶やかな滑層が発達します。そして殻軸は、滑らかながらも存在感のある大きな3本の軸襞で飾り付けられますが、この軸襞にはまるで金属加工品の溶接痕のような圧倒的存在感を放つ縫帯が連なります。縫帯は水管溝の縁が幾重にも折り重なることで形成され、まさしく貝殻の成長の歴史を体現し、本種の重厚な印象に拍車をかけるのです。ちなみに本種は蓋を持たないタイプの巻貝ですが、しかしそのインパクトゆえに物足りなさなど微塵も感じさせないパワーを持った貝でもあるように感じます。

 なぜだか無性に、こういう大型の貝を愛でたい夜があります。小さな貝にしか宿らない緻密な造形美と、大きな貝からしか得られない特有の満足感。相反する魔性の誘惑は今宵も貝コレクターたちを狂わせ、終わりなき欲望の果てへの旅は続くのです・・・。

 

2026.7.30

安田 風眞

No. 79 タカラガイ科のコジカダカラ(仔鹿宝)

 

第79回目は、タカラガイ科のコジカダカラ(仔鹿宝)です!

 コジカダカラは、米国はカリフォルニア〜南米ペルーの東太平洋およびガラパゴス諸島近海に分布する殻長60〜70mmほどの中-大型のタカラガイです(特大個体では100mmを超えるんだとか)。それなりの殻長に達するのにも関わらず本種が仔鹿と呼ばれるのは、外観は本種にそっくりながらも本科最大を誇る絶対王者・シカダカラが君臨するからです。シカダカラは最大で190mmにも達する怪物で、いつの日か標本箱に収めたい憧れの貝の一つです。

 さて、今回の主役に話を戻しましょう。本種の褐色の殻表に所狭しと”鹿の子模様”が散りばめられる様は非常に可愛らしく、細く長いシルエットまで相まってまさにシカそのもの!と言っても過言ではないデザインは大変に目を惹きます。さらにこの殻表は数本の褐色横帯で飾りつけられることで、単調になりかねないパターンに見事なアクセントを与えます。一方で腹面は背面のキュートな雰囲気から一変し、淡褐色と薄紫色が混じり合い、ここに真っ黒な歯がびっしりと並び得体の知れない毒々しさを醸し出します。とはいえ、殻口下端が大きく開くのはシカダカラと共通した特徴的なデザインで、その堂々たる出立ちは実に雄々しくカッコいいと思いませんか?可愛らしさと禍々しさの二面性を持つ本種は、うまく言語化できない魔性の魅力を持つタカラガイなのです。

 ちょうど今、北海道ではこの春に生まれたばかりの仔鹿が母親の足元をチョロチョロと走り回る季節です。その長閑な光景に感化され、今回は本種を選んでみました。ちなみに仔鹿に特有と思われがちな”鹿の子模様”ですが、実は成獣も夏毛ではみんなこの模様になります(写真は近所の牧草地で撮影)。シカつながりで、明日の話題に使える?豆知識でした。

2026.6.29

安田 風眞

No. 78 ニシキウズガイ科のダンベイキサゴ(団平細螺)

 

第78回目は、ニシキウズガイ科のダンベイキサゴ(団平細螺)です!

 ダンベイキサゴは、男鹿半島・鹿島灘から九州南部の、水深5〜30mの砂底に生息する巻貝です。

 写真からも一目瞭然ですが、殻の色彩には個体差が激しく、無地で地味なものから帯状に控えめな模様が入るもの、放射状の模様や紅色の化粧をするものまで現れる始末。同種間でこんなにも個性が輝く貝には、心惹かれない訳がありません。殻は比較的薄手でありながら殻軸周辺の密度は高く、程よい重量感を誇ります。殻表はややマットながらも艶やかで強い光沢を帯び、手のひらで転がせばキラリと太陽を反射します。殻を返せばさらに滑らかで光沢が強い殻底が現れ、ここに扁平して開く殻口には真珠光沢の輝きが顔を覗かせます。殻幅は30〜40mm程度とキサゴの仲間では最大になり圧倒的な存在感を放つ様は、まさにキサゴの王といったところでしょうか。ちなみに「だんべい」とは江戸〜昭和時代にかけて活躍した船底が平たい荷を運ぶ頑丈な川船のことだそうで、命名者は本種の強く扁平した殻の形状や堂々たる出立にこの船を見たのかもしれません。

 本種の水産流通名は「ながらみ」で、房総半島〜紀伊半島にかけての海域での水揚げが多く、これらの地域では古くから食用として、そしてその美しさ・入手のしやすさから子供のおもちゃ(おはじき)としても愛されてきた貝でもあります。図鑑を見ると、私の故郷・秋田にも本種は生息しているはずなのですが、海で拾えるのは小型のイボキサゴばかり・・・。これまで一度も出会うことなく、今日に至ります。こんな素晴らしい貝が日常に溢れた地域の暮らしは、少し、いや大変に羨ましい限りです。

2026.5.28

安田 風眞

No. 77 イモガイ科のゴマフイモ(胡麻斑芋)

 

第77回目は、イモガイ科のゴマフイモ(胡麻斑芋)です!

ゴマフイモは、八丈島・紀伊半島以南の熱帯インド-西太平洋の潮間帯〜水深75mの岩礁の間やサンゴ近辺の砂中に分布する殻長50mmほどのイモガイです。

ずんぐりむっくりとしたシルエットに、大きくもなく小さくもない絶妙なサイズ感との相乗効果でとても可愛らしい佇まいの本種の殻は、非常に重厚で光沢を帯び、光の角度によっては布目状の細かな構造が浮かび上がります。さらに肩上には結節が並び、ここに極めて低い螺塔が形成される様はまさに典型的なイモガイといった風情。もうこれだけで、何やら抑えきれない気持ちが込み上げてくるのは私だけでしょうか?そして純白を基調に不規則に散りばめられた胡麻斑柄は、同科貝類によく見られる幾何学的な美しさとはまた一線を画するパターンの読めないデザインとなり、どこか物足りないはずなのに、無性に心を惹かれるのです。ちなみにもう既にお察しの通り、このチャームポイントである模様こそが本種の和名の由来になっています。

それにしても、イモガイの細く長い殻口には、なぜこんなにも胸がときめくのでしょうか。外唇はカミソリのように薄く鋭く、そしてここにもはやその意味は果たさず、ただの痕跡でしかない蓋が飾り付けられ、これを以てイモガイは”完成”するのです。

久しぶりにイモガイをじっくりと眺めていると、やはり愛が溢れて止まりません。何を隠そう、私は大のイモガイ愛好家。77回目のキリ番を、本科で迎えられたことを嬉しく思います。そしてまた、新たなイモガイへの渇望が私を狂わせるのです・・・。

2026.4.30

安田 風眞

No. 76 ミノムシガイ科のオオミノムシ(大蓑虫)

 

第76回目は、ミノムシガイ科のオオミノムシ(大蓑虫)です!

オオミノムシは、紀伊半島以南、熱帯インド-太平洋の潮間帯〜水深20mの砂底に生息する殻長50mmほどの巻貝です。

殻表は比較的強めの光沢を帯び、スラリと伸びる端正なシルエット。これだけでも十分に”美貝”の条件を満たしてしまうのに、本種はこれだけでは終わりません。その美貌は一目瞭然でしょう。肩が立ち、格段が際立つ螺塔はゴシック建築の如き緻密な構造を取ります。漆黒に染まる殻頂はまさに小尖塔そのもので、この不可思議な偶然の一致にしばし目を奪われてしまいます。そしてようやく体層へと目を移せば、規則正しく殻表に波打つ縦張肋は緩やかなカーブを描き、これを帯状の模様が横断します。腹面では褐色混じりの鶯色だったこの帯は、背中では濃褐色と淡褐色が混ざり合います。このグラデーションはまるで針葉樹林に沈む夕陽のようで、遙か南の島の貝に馴染み深い北海道の景色を見るとは、何やら嬉しい驚きが隠せません。ミノムシガイの仲間は蓋を持たず、標本を手に取ると若干の物足りなさを感じてしまいますが、そんなことなど忘れてしまうほどに圧倒的な魅力で溢れた貝です。

本州では桜が咲き乱れる今日この頃、こちらではようやく雪が溶け、フクジュソウの蕾はいよいよ青空を仰がんと膨らみ始めました。長い長い冬を駆け抜け、やっと聞こえてきた春の足音に耳を傾けながら、皆様にとって良い新年度が訪れることを願います。

2026.3.30

安田 風眞


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No. 75 ムシロガイ科のアラレガイ(霰貝)

 

第75回目は、ムシロガイ科のアラレガイ(霰貝)です!

アラレガイは、房総半島以南、熱帯太平洋の水深10〜100mの砂底で暮らす小型の巻貝です。

20〜30mm程度の殻はずんぐりむっくりとした非常に可愛らしいシルエットで、何やら妙に胸がときめく佇まいではありませんか。殻表では縦肋が螺溝で切られることでイボ状の突起が生じ、これを霰(あられ)になぞらえこの和名が与えられました。生きている個体では、この霰の間にびっしりと泥が詰まっていることもしばしば。これをブラシで優しく洗浄してやると、鈍い光沢を帯びつつ、ややまだらな濃淡まじりの褐色の地肌が現れ、肩上の突起の存在により縫合部が際立つアウトラインや、殻長へ向かうほどに彫刻が緻密になってゆく圧巻のデザインが露わになります。殻口は純白で強い光沢を放ち、外唇上に小さな棘状突起がちまちまと並ぶ様もチャーミングで、ルーペを片手にあらゆる角度からじっくりと観察する時間が実に楽しいのです。

本種は腐肉食性、つまり生物の死骸を食べる海のお掃除屋さんを担う種の一つで、実はこの標本も魚の死骸に集まっていた個体を採集したものです。学生時代、貝の標本処理のために本種の仲間を大量に飼育していた時期がありましたが、彼らの”仕事ぶり”には目を見張るものがあり、改めて分解者の存在の偉大さに脱帽したものです。

2026.2.27

安田 風眞

No. 74 ヨメガカサ科のマツバガイ(松葉貝)

 

第74回目は、ヨメガカサ科のマツバガイ(松葉貝)です!

マツバガイは、男鹿半島・房総半島から九州南部・朝鮮半島の潮間帯岩礁に生息する貝です。分類上は腹足綱に属する巻貝の仲間ですが、殻は螺旋構造を取らない異端児です。

殻表には殻頂から放射状に濃褐色の模様が走り、これを松の葉に擬えこの和名が与えられました。個体差こそありますが、発色の良い個体では外縁が鮮やかな暗青色で彩られ、ブルーのリングとなって浮かび上がります。しかし、本種最大の魅力はその内面にこそあります。橙色の中心部を真珠光沢が取り囲み、さらに殻表の放射模様が透かされることで大海原に登る旭日を思わせる雄大な趣き。殻表からは想像もできないあまりの意外性に、思わずため息が漏れてしまうのです。一見すると非常に地味で、磯で手に取ることさえ億劫になるほど花がないように思われがちな本種ですが、一度岩から剥がせばその隠された魅力に胸を打たれることでしょう。ちなみに、古くは”ウシノツメ”という名が与えられていたようで、酪農家の友人に聞いてみたところ、確かにたまにこんな模様の爪の個体がいるよと教えてもらいました。

実は本種、磯で比較的簡単に採集できる美味しい貝でもあります。煮てもよし、焼いてもよしの本種ですが、歯舌と呼ばれる”歯”を除去しなければジャリジャリとして食えたもんじゃありませんのでその点はご注意を。お住まいの地域の漁業調整規則を調べてみて、採集に問題がない場合はぜひ味わってみてはいかがでしょうか。

2026.1.29

安田 風眞

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