No.12 ヤコウガイの蓋
第10回目では想いの丈をこめたヤコウガイへの恋文をしたためましたが、実は文字数の関係で語り切れなかった魅力がありました。今回は隠れた魅力、ヤコウガイの蓋について語ってみようと思います。
その前に貝の蓋について少々説明します。サザエのつぼ焼きでご存知のように、腹足類(巻貝)は蓋を持っています。なかにはアワビ(実は巻貝!アワビのお話はまた今度)のように進化の過程で蓋を捨てたものもありますが、そんな蓋のない巻貝でも幼生の時にはしっかりと蓋を持っています。 また、サザエのように硬い石灰質の蓋のものと、アカニシやエゾボラのようなぺらぺらとした革質の蓋の二種類がありますが、石灰質の高級な蓋は少数派でほとんどの種は革質の蓋を持っています。
そろそろヤコウガイの蓋に話を戻しましょう。本種の蓋の外側はサザエのような刺々ではなく饅頭のようにつるりと丸く、肌触り、サイズ感ともにまさに絶妙。それに加えずっしりとした重みがあり、手に取るとなんとも言えない所有欲を満たしてくれます。内側に浮かぶ螺旋模様も非常にチャーミングです。
そんな愛すべきヤコウガイの蓋ですが、初めてこれを見た大学の研究室の後輩諸君の反応が面白かったので、沖縄土産に配ったことがあります。そこでまんまと私の張った“罠”にかかった数名は、私が研究室を去った現在も意欲的に貝殻を集めているようで、時折素晴らしい貝殻を手に入れては自慢の連絡をくれます(とても嬉しい)。ちなみに私は会社のデスクでペーパーウェイトとしてこの蓋を愛用しており、時折これを撫でては遥か南国の海に想いを馳せ、日々の業務にいそしんでおります。
安田 風眞